少女趣味こうなあ 長屋版 七
方丈記 第百五十五段
鴨 長明
「春暮れて後夏になり、夏果てて秋の来るにはあらず。春はやがて夏の気を催し、夏より既に秋は通ひ、秋は則ち寒くなり、十月は小春の天気、草も青くなり梅もつぼみぬ。木の葉の落つるも、先づ落ちて芽ぐむにはあらず。下より萌(きざ)しつはるに堪へずして落つるなり。迎ふる気、下に設けたる故に、待ちとるついで甚だはやし。生・老・病・死の移り来る事、又これに過ぎたり。四季はなほ、定まれる序(ついで)あり。死期(しご)は序(ついで)を待たず。死は前よりしも来らず、かねて後に迫れり。人皆死ある事を知りて、待つこと、しかも急ならざるに、覚えずして来る。沖の干潟遥かなれども、磯より潮の満つるが如し」。
虎さん またえらい古いの出してきましたなあ。
熊さん わしはこういうの、目が拒絶反応おこしますねん。どういう意味でんねん。
ご隠居 そんな難しいことないやろ。今月は巻頭言に出直しの話があったので、ちょっと学校で習ったんを思いだしたんや。
「四季にはまだちゃんとした順序があるが、死期には順序がない。しかも死は、前からばかりは来ないで、いつの間にか、後ろに迫っているんや。人はみんな、死ぬことは知っているが、死は、それほどに切迫していないうちに、思いがけずにやってくる。沖の干潟は遠く隔っているのに、足もとの海岸から潮が満ちてくるようなものや」。て、言うてはるんや。
熊さん その訳、ほんまでっか。
ご隠居 ほんまや、せやけど無理に人には言わんでもええぞ。虎さん 出た、ご隠居得意のセリフ。こないだご隠居の息子はん、ご隠居に聞いた話を人に言うて大恥かいたと言うてましたで。
ご隠居 せやさかい、人には言うな言うてるのに。
みんな死は訪れるということや。どんなに貧富の差があっても、平等に死ぬんや。それもそれを自覚しないままにそっと死というのは、後ろから忍びよってくるんや。
虎さん 貧富の差がないって、病院によって随分違うかわかりませんで。金持ちはええ病院に行って、ええ治療してもらうさかい貧乏人より長生きできまっせ。
ご隠居 いうてもちょっとした時間の違いや。いっぱい管(くだ)つけて長生きするのが、幸せとは限らんしな。
虎さん くだはつけても巻いてもええことあらへんな。
熊さん そういや在原業平の歌にそんな歌がありましたな。
ついに行く道とはかねて聞きしかど
昨日今日とは思わざりしを
虎さん えらい熊さんきれいにまとめたな。